SNSの誹謗中傷に巻き込まれない・加害者にならないためのデジタルリテラシー教育

2023.09.13

SNSの普及に伴い、誹謗中傷やネットいじめが深刻な社会問題となっています。特に子どもや青少年はオンラインでのトラブルに巻き込まれやすく、時には無意識のうちに加害者になってしまうこともあります。こうした問題を防ぐために、学校や家庭でのデジタルリテラシー教育が重要視されています。
この記事では、SNS上の誹謗中傷を防止するために必要なデジタルリテラシー教育のポイントや具体的な方法について解説します。

目次

SNSでの誹謗中傷とは?

子どもが無意識に加害者になってしまう理由

デジタルリテラシーを育むには

デジタルリテラシー教育の必要性

SNSでの誹謗中傷とは?

誹謗中傷とは、悪口や根拠のない嘘等を言って、他人を傷つける行為です。こういった行為は、被害者に深刻な精神的苦痛を与え、最悪の場合、自殺などの重大な結果を招くこともあります。また、インターネット上で誹謗中傷の書き込みをすれば、内容によって名誉毀損罪や侮辱罪等の刑事責任を問われる場合があります。

総務省によると、誹謗中傷などの相談を受け付けている違法・有害情報相談センターにおける相談件数は高止まり傾向にあり、2022年度の相談件数は5,745件であったと報告しています。法務省でも、2023年におけるインターネット上の人権侵害情報に関する人権侵犯事件の数は1,824件と、高水準で推移していると報告しています。

子どもが無意識に加害者になってしまう理由

子どもや青少年がSNS上で無意識のうちに誹謗中傷の加害者になってしまう背景には、以下のような心理学的要因が考えられます。

①匿名性と軽率な投稿

心理学者のJohn Suler(2004)は、「オンライン脱抑制効果」という理論を提唱しています。この理論によれば、オンライン環境では匿名性や物理的距離感から社会的抑制が弱まり、対面では控えるような攻撃的な行動を取りやすくなると指摘されています。子どもたちが匿名性や手軽さにより深く考えずに投稿し、結果として誹謗中傷につながるケースが多くあります。

②共感性の欠如

オンライン環境では、非言語的な手がかり(表情、声のトーンなど)が欠如しているため、相手の感情を適切に認識することが難しくなります。Carrierら(2015)の研究でも、オンラインコミュニケーションが共感能力を低下させる可能性を示唆しています。これにより、子どもたちは相手の感情を考慮せず、軽い気持ちで傷つける発言をしてしまうことがあります。

③集団心理

集団心理も誹謗中傷がエスカレートする要因になりえます。社会心理学者のMyersとLamm(1976)は、集団の中で同調圧力が働き、個々の態度や行動がより極端化する「集団極性化現象」を指摘しています。SNSで他のユーザーが批判的なコメントをしているのを見ると、自分も安易に同調し、攻撃的な投稿を繰り返してしまうリスクがあります。

デジタルリテラシーを育むには

子どもたちがSNSを安全かつ適切に利用するためには、デジタルリテラシー教育が不可欠です。デジタルリテラシーとは、インターネットやSNSを適切に利用するための知識や態度、判断力を指します。文部科学省は、情報モラル教育の重要性を強調し、各学校での指導を推進しています。具体的な教育内容として、以下の点が挙げられます。

①オンライン上の言動がもたらす影響の理解

デジタル社会の中で生活していく際の基本的な考え方や態度の育成を図る。具体的な誹謗中傷の事例を用いながら、自身の投稿が他者に与える影響を理解させる。

②感情コントロールと自己管理能力の育成

強いネガティブな感情が生じた際の対処法を学ぶ。「イラッとしたらすぐに書き込まない」「冷静になってから投稿する」といった自己管理スキルを育てることで、衝動的な加害行動を防ぐ。

③コミュニケーションスキルの育成

オンラインでも相手の気持ちを考えたコミュニケーションを行えるよう支援する。「相手の立場に立つ」「言葉の選び方や伝え方を工夫する」など、具体的なコミュニケーションスキルを育成する

④トラブル対応の方法を学ぶ

トラブルが起きた場合に取るべき具体的な行動(例えば、スクリーンショットで証拠を保存することや、信頼できる大人や専門機関に相談する方法など)を学ぶ

デジタルリテラシー教育の必要性

SNSの誹謗中傷は、子ども自身だけでなく、その家族や友人など多くの人に深刻な影響を及ぼします。早期からデジタルリテラシー教育を実施し、適切なコミュニケーション方法や感情のコントロールを学ばせることが非常に重要です。学校や家庭が連携し、子どもたちが安全で思いやりのあるデジタル社会の一員となれるよう、継続的な取り組みを行っていきましょう。

引用・参考

警視庁:インターネット上の誹謗中傷等への対応
https://www.npa.go.jp/bureau/cyber/countermeasures/defamation.html

総務省:令和5年版情報通信白書
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r05/html/nd123130.html

法務省:令和5年における「人権侵犯事件」の状況について
https://www.moj.go.jp/content/001415802.pdf

Suler, J. (2004). The online disinhibition effect. CyberPsychology & Behavior, 7(3), 321-326.
https://doi.org/10.1089/1094931041291295

Carrier, L. M., Spradlin, A., Bunce, J. P., & Rosen, L. D. (2015). Virtual empathy: Positive and negative impacts of going online upon empathy in young adults. Computers in Human Behavior, 52, 39-48.
https://doi.org/10.1016/j.chb.2015.05.026

Myers, D. G., & Lamm, H. (1976). The group polarization phenomenon. Psychological Bulletin, 83(4), 602-627.
https://doi.org/10.1037/0033-2909.83.4.602

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